研究概要 |
遺伝子組み換えで得られた高度好熱菌の産生する3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素と常温菌のキメラ分子は種々の耐熱性を示す。特に、N末端の20〜40%が好熱菌由来である2T2M6T40%が常温菌由来である4M6Tより好熱菌由来の部分が多いにもかかわらず低い耐熱性を示すことを見いだした。さらに、耐熱性の劣化したキメラ分子に変異を与えることによって耐熱性が回復することも見いだした。これらの点についての構造化学的知見を得るためこれらの酵素結晶の構造決定と2T2M6Tの耐熱化変異体であるI93L,S82Rの構造決定を行った。いずれの試料についても分解能2.1Aで精密化を行い、R値を18%程度に收れんさせることができた。高度好熱菌の酵素の構造と比較するとキメラを作製することによって常温菌由来の82番近辺に共通の構造変化が観測された。4M6Tの場合、更に副単位の接触に関与しているアーム部分に構造変化が見られた。2T2M6Tを組込んだ菌を高温下で培養することによって得られたI93Lの変異体は置換によって側鎮と主鎮の接触が減少し、分子内の歪みがなくなることによって耐熱性を回復していた。他方、S82Rの変異体では82番の側鎮がセリンからアルギニンに変換することにより87番のアルギニンと水を介して水素結合が可能となり、新たに導入された水素結合によってループ部分の構造が固定され耐熱性が向上したものと思われる。これらの構造と生化学的データから、キメラ分子のように多くの残基が置換される場合にはエントロピーの影響が見られ一残基の置換ではエンタルピー,エントロピーの両者の影響が観測された。
|