研究概要 |
本研究は酵素の熱安定性を構造化学的に研究し、蛋白質工学等の手法により有用な分子を作り工業的に利用するための基本的原理を明らかにすることを目的とした。このため、3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素を対象として選び、高度好熱菌由来の分子及び種々の割合で常温菌由来の分子と融合したキメラ酵素とこれらの変異体の立体構造を高分解能で精密に決定した。いづれもデータは1.9A分解能まで測定し精密化は2.1A分解能で行った。分子は同じ副単位が会合した二量体で、個々の副単位は2個のドメインから成立っていた。副単位の構造は、基本的にはα/βバレル構造で10本のβ構造が分子の中央部のβシートを形成しそのまわりをαヘリックスが取り囲んでいた。このうち一本のβ構造は分子の外に張り出しており副単位間の相互作用に役立っていた。他の分子もほゞ同じ構造をしていたが、4M6Tのキメラ分子は好熱菌の酵素と0.75Å,2T2M6Tと0.34Aの平均のずれがみられた。大きな構造変化は主として80,112番近辺に共通してみられた。これらの場所は二つのドメインの間で活性に関与すると考えられている部位なのでその構造変化が耐熱性に影響しているものと考えられる。耐熱性を獲得したI93L-2T2M6Tからペプチド鎖と側鎖との相互作用による歪みを解消することにより、また、S82R-2T2M6Tでは分子表面に新たに導入された水素結合によりループ部分が固定され耐熱性が回復したことをみいだした。これらの結果を踏まえ、熱安定性に関する理論的な検討を行い、キメラ分子のような多くのアミノ酸置換ではエントロピーが安定性に寄与していることをみいだした。しかし、詳細な検討のためには更に多くの分子構造を決定する必要がある。
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