我々は脱髄性神経疾患、特に多発硬化症の動物実験モデルの開発に務めた。Wistarラットにおいて、lysolecithine0.5%を脊髄後索にmiaoinjectionすることにより脱髄に特徴的な神経伝導障害を持つ限局性の脱髄病巣を作り出すのに成功した。これを用いて、ジギタリス剤であるOuabainの全身投与がその伝導障害を一過性に改善することを見いだした。Ouabainを再投与することにより効果も再現され、2ー3時間以上の持続的な効果を得ることも可能であった。 一方、単一神経線維でのジギタリス剤の効果を調べるため、Wistarラットにおいて椎弓切除後、尾部を支配している単一の前根線維を刺激して得られる単一神経活動電位を記録するモデルを作成した。これにおいてlysolecithine0.5%を局所投与し急性の脱髄性伝導障害をつくり、Ouabainの局所投与の障害に及ぼす影響を観察した。やはり、Ouabainは一過性に伝導障害を改善し再投与で効果は持続した。 これらの基礎実験を踏まえて、この実験の説明を受け合意の得られた多発性硬化症の患者7名においてジギタリス剤の1つであるDigoxinー0.02mg/kg体重をゆっくりと静注した。うち3名で誘発電位所見ならびに臨床症状の有意の改善をみとめた。 このようにジギタリス剤は脱髄性神経疾患、特に多発性硬化症の対症療法として有望であり、今後効果の持続を延ばすこと、並びにより著明な効果をえる投与法を見つけることが課題である。 また、中枢神経内での神経伝導の機能は情報の伝達であることから脱髄の神経暗号に及ぼす影響も調べる必要があり、そのために用いることのできる動物モデルを作成中である。これが完成すれば脱髄によって障害された神経暗号にジギタリス剤がどのよな影響を与えることができるかを検討する計画である。
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