研究概要 |
前年度に開発した動物実験モデルに加え、本年度はラット坐骨神経にlysolecithine1%又はテリリウムをmicro injectionすることにより末梢神経の脱髄モデルをつくった。このモデルは脱髄巣の近位部および遠位部を電気刺激し後肢足部の筋電位を記録することにより、同一のラットで経時的に伝導ブロックを評価することを可能にした。このモデルでHamano Kaji Kimuraらはウアバインの全身投与(腹腔内)により伝導ブロックが一過性に改善することを見出した(submitted to Neurology). 前年度に開発したラットの脊髄後索の脱髄モデルでは脊髄の伝導障害(rateーdependent block)が見られ、特に高周波インパルスが伝わりにくくなるため神経の伝報伝達が障害されることがわかった。本年度はこの伝導障害と臨床症状の関連を調べたところ、脊髄の伝導障害が残っているにもかかわらず、脊髄から大脳皮質へ伝播される皮質電位の振巾は増大し、それに伴なって臨床症状は改善した。このことは脱髄によりいったん高周波成分が脱落してしまった放電列を、より中枢のシナプス後の細胞が「再解釈」を始めたためと考えられた。この現象の形態学的な基礎を探るため、このシナプス後にある後索核の電顕像を正常のそれと比較して見た。脱髄を起こしたラットでは、そうでないものに比して有意にaxosomatic synapseの数が多く、axodendritic synapseの数は少なかった。この様なシナプスの再構成が脱髄による伝導障害からの機能的回復に寄与していることが示唆された(submitted to Brain Research)。 最後に実際に7例の多発性硬化症患者においてジギタリス剤の投与を試み3例において臨床症状及び中枢伝導障害の改善を認めた(Kaji et al Ann Neurol 28;582,1990).
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