研究概要 |
1.明清楽譜の資料研究においては,四竈訥治編『音楽雑誌』等に記録されている明清楽受容史を整理し,明清楽年表〈(1)〉,清楽譜本刊行推移表〈(2)〉,清楽演奏曲目推移表〈(3)〉,清楽譜本所在目録〈(4)〉を作成した。(1)によって清楽の大衆化過程における和楽との交流,(2)(3)によって清楽独習書の刊行および譜本刊行数の推移を調査した。その結果,明治期における清楽譜本刊行数のピ-クは5年を周期としてきわめて規則的に現れることを明らかにした。2.(1)渡瀬チヨコの胡琴教授,中村きらの月琴教授をVTRに収録し,聞き取り調査・採譜を含む詳細な記録を作成した。その結果、渡瀬(矢太楼系)は最近まで工尺譜を用いていたこと,中村(保存会系)はもっぱら口承によっていること,「くんち系」は両者の指導下にあることを明らかにした。(2)長崎明清楽保存会の演奏活動・伝承活動の記録を継続し,博覧会出演4,各種団体の大会・月琴忌・放送等各1を記録した。3.譜本の比較考証に基づき,清楽曲目対照表〈(5)〉を作成した。これによって,江戸末期から明治末期にかけて刊行された明清楽曲数が150前後であることを確認した。4.収録したVTRと16ミリフィルム『長崎の明清楽』を資料とし,パ-ソナルコンピュ-タを用いて伝承清楽曲9曲の五線譜アンソロジ-を作成した。この結果,宮音のピッチはおよそbーesの範囲にあること,及びテンポはM.M.65ー170の範囲にあること、胡琴に部分的ヴァリアンテがあること,明笛に音色ブレンド機能が存在すること、半鼓リズムの規則性等を明らかにした。5.内外の史料及び中国人研究者からの聞き取り調査によって,清楽の源流は「福建南音音楽」にあることを推定した。今後,現地調査等によってさらに確かな結論を得たい。6.楽器研究に関しては,長崎において現在使用されている月琴・明笛等の構造を記録した。7.明清楽の非伝承曲復元に関しては,清楽に吸収された明楽のアンソロジ-と,高い頻度で清楽譜本にあらわれる非伝承曲のアンソロジ-を作成したことによって、これらを復元することの可能な段階に達した。中国人研究者との共同研究等によって正統な復元をめざす。
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