研究概要 |
本研究は長崎に伝承されている中国系音楽「明清楽」に関する音楽学的研究である。研究成果は三つに大別される。1.明楽と清楽の受容史に関する資料を収集整理し,受容の諸相を明らかにした。(1)魏雙侯・魏皓と明楽にかかわる年代記の整理,(2)明楽譜研究に基づく明楽曲目対照表の作成,(3)清楽譜刊行椎移の解明,(4)清楽曲目対照表の作成等によって,250近くの明楽譜と150曲以上の清楽譜の存在を具体的に明らかにした。また明治期の清楽演奏曲目回数表を作成し,明清楽と和楽との交流の実態を具体的に明らかにした。2.長崎の明清楽伝承実態の記録においては,長崎明清楽保存会の活動を1986年から1990にわたって詳細に報告した。(1)明清楽演奏が各種アトラクション出演だけでなく,献奏という形態の頻度が高いこと,(2)月琴を中心として60梃〜70梃の明清楽器が,現在長崎でともかくも音を出していること,子供への継承が意識的に図られていること等を明らかにした。(3)小曽根菊直系の渡瀬チヨコ氏・中村きら氏との対談記録を詳細に行い,受容史の事実確認作業を行い,(4)胡琴レッスン記録や月琴指導等の実技的記録も行った。4月琴と明笛の測定を行い,長崎で用いられている月琴はほとんどが標準型であるが,明笛は標準より短いものを用いていることを明らかにした。3.明楽譜と清楽譜の解読によって,(1)清楽に吸収された明楽曲のアンソロジ-を作成し,(2)長崎で演奏されている清楽曲の譜例集を作成した。(3)収集した清楽曲のうち江戸期や明治期に多く演奏されていた曲のアンソロジ-を作成した。これらの研究過程において明清楽に関する知識が報告書に集大成され,中国の学者との共同研究を行うための理論的な基盤を形成することができた。4.日本に在住する中国人研究者との交流から,明清楽の源流は福建南音音楽である可能性が大きい。このことは,本研究の資料によってもかなりの程度裏付けられている。
|