研究概要 |
平成2年度は自己知識の情報処理と対人知覚、対人記憶、表情表出の3つのモジュ-ルの各々に対して、モジュ-ル間の関連性をとらえる実験を行った。特に、自己知識の情報処理と対人知覚、対人記憶に関して、自己生成パラダイム(selfーgeneration paradigm)による自己関連づけ効果の検討を行った結果、ネットワ-ク理論(e.g.,Anderson,1983)による説明が可能となることが明らかにされた。されに、感情が自己関連づけ効果に大きく寄与することが確認され、特に好き、嫌い、という肯定的な感情と否定的な感情によって自己生成される(selfーgenerated)人物名では、その活性化の閾値が異なること、さらに、肯定的な感情を伴って生成される人物名は活性化の閾値が低いことが示された。ネットワ-ク理論から説明を行う場合、活性化の閾値の問題は数理モデルによって説明することが必要となる。今後、SAMモデル(Raaijmakers & Shiffrin,1981)を使用してシュミレ-ションを行い、感情と記憶に関しての数理モデルの構築をめざす予定である。このように感情が情報処理に影響を与えることは、表情表出および表情認知にも関連する問題として注目すべき結果であると思われる。表情表出および表情認知に関しても、今後上記の数理モデルの構築と関連づけて検討する予定である。以上の研究結果より、社会的認知の情報処理課程では感情の役割が重要であることが明らかにされたが、特に感情が情報処理過程にどのように影響するのか、そして、その影響をどのように理論的に説明していくのか、についての解明が次年度の問題として残された。
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