視覚障害者の終夜睡眠構造に関する生理・心理学的研究は極めて少ない。わずかに見られる内外の研究も、夢見とREM睡眠に関するものがほとんどである。Krieger et al.(1971)は、先天性視覚障害者では徐波睡眠(段階3+段階4)の出現率が、同年令の晴眼者に比べて著しく少ないことを報告している。しかし、この問題に対する組織的研究はほとんど行われていない。視覚障害者の睡眠に関する生理・心理的機能を理解するために、また、視覚入力と睡眠調節との関連を調べるために、本課題による睡眠研究を3年間にわたり実施してきた。 我々はこれまでに、先天性障害による全盲者13名(男子9名、女子4名、平均年齢28.1歳、年齢範囲18ー61歳)、外傷などによる全盲者3名(全員男子、平均年齢26.0歳、年齢範囲22ー32歳)、弱視者5名(男子4名、女子1名、平均年齢39歳、年齢範囲20ー53歳)を対象に日常生活場面において2〜3夜の連続終夜睡眠ポリグラフ記録を実施した。 本年度、この研究の最終実験を行ない、それに過去2年間の成果をくわえて分析・総合を行った。その結果、注目すべきことは、深睡眠にあたる徐波睡眠の平均出現率が、各年齢層の晴眼者の平均値を大きく下回る事例が多く見られたことである。さらに、中途覚醒の回数も多かった。また、朝の覚醒後の主観的報告から、目覚めへの切りかえが不十分で、午後になっても眠気を訴える者が多いことが判明した。 今後、さらに記録例数を増やし、視覚障害者の睡眠経過を調べ、失明期間や障害内容との関連を調べることが必要である。
|