本研究は、大都市の郊外住宅団地という特殊な居住環境が、その居住者の生活や人間関係等にどのような影響を及ぼしているか、また造成後数10年を経過したこんにち、それはどのように変質してきているか等の問題を、新旧2つの住宅団地(花川団地と真駒内団地)を調査対象地として選定し、それを社会学的視点から組織的・総合的に研究することを目的とするものである。 本年度は本研究の「まとめ」の年であり、特に前年度とり残した3つの問題、すなわち(1)団地居住者のモビリティの実態(2)団地における高齢者の実態(3)団地社会における政治過程の把握に全力をそそいだ。(1)の問題については公団・公社との係わりがあり資料の収集に思わぬ時間を費やし、なお整理中であるが、極めて興味ある知見を得ている。(2)の問題もプライバシイにかかわるとして資料の閲覧に至る迄に種々困難があったが、一部に関してのみ興味ある資料を収集出来、その整理を終えたところである。(3)の問題については市会議員との接触に手間どり、調査の入口に入ったところである。 調査課題のうちまだ残されている問題があるが、しかし興味ある幾つかの知見を得ることが出来た。特に団地居住者の移動性の高さ、したがって居住地域に対するコミュニティ意識の欠落、そして団地社会の高齢化現象など、市民から羨望の的とされていた郊外住宅団地も、今や驚異的な変貌を遂げつつあるということが出来る。かってアメリカの社会学者が郊外の高齢化現象を「The Graying Suburbia」と呼んだことがあるが、わが国においても、そして特に古くに形成された郊外住宅団地においては、まさに「郊外のたそがれ」現象が急速に顕在化しつつあると認めることが出来る。それはある意味では社会学上の「郊外の神話説」に対して、1つの問題提起をなすものである。
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