研究概要 |
一つの小地域単位(集落あるいはコミュニティ)に居住する人口は,自然増加の状況および外部社会との関係によって、膨張・安定・縮少のいずれかの過程をとってきた。これらの変動のパタ-ンの中には顕著な他出や新入あるいは両者の並存状況も含まれている。集落成員の固定性と変動性、あるいは安定性と不安定性の問題は、比較社会学的観点からとくに興味深い側面を有している。この研究計画ではこれらの人口変動のタイプが日本と東南アジアの村落において如何に出現し,コミュニティ構造といかなる関係を有したかを明らかにすることを試みた。 上記の目的のため,東南アジアから若干の事例を送んでこれらの側面に関して記述を試みる一方,日本の集落の特性に関して福井県その他の地域で実地調査を行ない、また歴史資料,統計資料等の収集を行なった。全般的な傾向としては、海域世界に立地して開放的性格をもち,あるいは小人口を基礎として開拓社会的性格を濃厚に有する東南アジアでは,概して集落成員の定着性が乏しく,集落の社会構造もそれに従って編成されているのに対して,江戸時代の農地重視に基いて編成された日本の集落では,家数および人口の固定性がきわめて対照的であることが明らかになった。このような変異への着目から従来固定性と安定性を前提として理解されて来た伝統的村落社会について,それが限定的な状況に過ぎないことを認識し,相対的な把握の必要性を確認するに至った。
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