本年度は、当初予定していた夏期休暇期間中のドイツにおける現地調査が実施できなかったので、最終段階のまとめを先送りせざるを得なくなった。そこで本年度は国内調査の継続と文献収集とに専念した。本年度は主に日本の労働行政一般の歴史、企業外の労働組合運動の社会的機能の解析に重点をおいて調査研究を行った。その結果わが国における労働行政と労働組合運動の影響範囲、すなわち活動領域が分割されていることが、一層明らかになった。ドイツでは労働行政と労働組合が、同一の領域でそれぞれ異なった機能を果たしているのに対比して、日本では勤労者の約三分の一については労働組合が、中小零細企業の勤労者を中心とした勤労者の三分の二については労働行政が直接関与していることがわかった。労働組合が連合を中心として再編成され政策提言や春闘により労働条件のガイドラインの提示を行っているが、社会レベルで労働条件の基準を策定し、維持させる機能を果たしていないことが明らかになった。これはわが国の労働行政の歴史的展開の特性と労働組合が企業別組織を基盤にして成立したことと深く関係があり、日本の都市化の過程で西欧社会に見られたような市民的活動が発生しなかったことと関係しているのではないかという仮説を検討する必要性が生じ、文献探しを行ったが適当なものを見つけることが出来なかった。
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