本研究は、精神遅滞者の視覚機能とバランスとの関連を解明することを目的として行われた。まず、精神遅滞児小、中学生および高校生56名を対象として平均台歩き、片足立ちの測定を行い、バランスの成績の高い者と低い者とを区別した。そして、Garfieldのmotor impersistence testにより、言語による行動調整能力を調べ、行動調整能力には大きな障害が存しないと考えられた者をバランスの成績の高い者、低い者のそれぞれから抽出した(5名ずつ)。こうして抽出された者を対象として、ト-クアイ(竹井機器製)を用い、平均台歩き、片足立ちを行っている最中の眼球の動きを調べ、そのビデオ記録から眼球運動の軌跡に関してバランスの成績の高い者と低い者とで違いが見られるかどうかを検討した。結果の細かな解析は今後さらに行う予定であるが、大まかに言ってバランスの高い者にはバランスの成績の低い者と比較した時、(1)視界の揺らぎが小さい、(2)平均台歩きの場合には視線を平均台に沿って動かしていくこと、(3)片足立ちの場合には視線を固定していることなどの特徴がみられた。また、視覚に関わる脳幹の機能を見るために回転後眼振検査を合わせて行なったところ、バランスの成績の低い者には眼振の誘発が極端に多い者と眼振の誘発が極端に少ない者とが見られた。以上から、精神遅滞者で運動中の視覚の用い方が不適切で、それとバランスの低成績とが結びついていると考えられる者では、脳幹水準にすでに障害が存する可能性が示唆された。
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