研究概要 |
過去二年間の調査・研究の成果をふまえて,本年はまとめの作業に入った。研究協力者に関連する個別テ-マを担当してもらい,それに関する個別論文の執筆を求めた。1991年12月には,個別テ-マの中間報告と全体にわたる研究交流を行う会を開き、報告書作成の方針を固めた。その記録は別冊の報告書に収めたので,詳細はそれを参考にしていただきたい。 全体にわたる重要なポイントでは以下のことを記しておきたい。申請書にも記したように,現代の教師に権威が失われていることは,誰しも認めることにちがいない。しかしそのさきの対応が二つに分れることも調査の過程で明らかになった。一つは,なんとか教師の権威を回復しなくはならない,というものである。もう一つは,そもそも教育には権威は必要ない,従って教師にも権威は必要ないのだから,権威不要の教育理論と実践を確立すればよい,というものである。このいずれも,問題の根の深さを理解しそこなっているように思われる。ただし,両者の争点を掘り下げていくことによって,教育現象のかなり深いところまで問題にできるという見通しがあらわれてきた。しかし本研究では,それ以前に,果してかつての教師たちは,本当の権威を持っていたのだろうか。もし持っていたとすれば,いつの時代のどういう種類の学校の教師たちであったのか,その権威は何に由来していたのだろうか,という歴史的にみた素朴な疑問をまず提出しなければならなかった。当初の研究課題には,「教師の権威の喪失過程」ということで,あたかも「喪失」する前には,教師に権威があったことが自明であるかのように想定していたが、今となっては,そのような想定自体の是非を問いなおさなくてはいけないところに連れもどされた。このように教師の権威の問題は一見古めかしくみえて決してそうではない。このことの判明が研究成果である。
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