「原位置移動の問題」 遺物分布の撹乱・遺構の破壊と言う問題は、考古学者にとってきわめて重大な問題である。そこで、まず、遺物が原位置を移動しているかどうかの問題を取り上げ、そこには、遺物が土壌中に埋積する以前と、以後との二つの問題があることを指摘した。後者に属する原位置移動の事実は、日本全国から知られ、それらはさまざまな営力によって、原位置が破壊されてきた。すなわち、レイモンド・ウッド氏らによる動物性撹乱・植物性撹乱・氷性撹乱・重力性撹乱・粘土性撹乱・気体性撹乱・水性撹乱・結晶性撹乱・地震性撹乱であり、それらの各過程は、複合して、日本の各遺跡においても、遺物の原位置移動に大きな働きをしていることを確かめた。これらの問題は、土中埋積後に生じた遺物移動であるが、土中埋積以前の問題も見逃せない。そこで、タフォノミ-の問題の再検討を行った。それは、人類遺物を伴わない化石獣骨の出土状態から、人類が関与したとされてきた点について、獣類自身の生活行動を重視する必要のあることを説いた。 「人類の琉境破壊の問題」 遺物分布の撹乱・遺構の破壊を生じさせる営力は、常に一方的に自然から人類へと一方向で働きかけるものではなく、人類による自然破壊が、新しい環境を生み、その結果、遺物分布の撹乱・遺構の破壊という現象を増幅させる点にも留意した。 「ケ-ス・スタディ-」 野外における観察も行い、火山降下物や土石流のようなより大きな営力による遺構破壊現象についても調査し、その一部については報告した。また、直接、重力性撹乱の問題を解決するため、斜面貝塚(茨城県行方郡麻生町於下貝塚)を発掘し、縄文中期に形成が始まる貝層がどの様に変形が進んだかについて、研究をおこなった。
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