今年度は西日本にしぼり、貿易陶磁器文献目録作成のための基礎的な調査と、担当者との協議などを行った。既に各地に蓄積されている膨大な発掘資料を目録作成のために整理するのは簡単な作業ではないが、各県の担当者の協力を得て、少しずつ作業に着手している。目録の完成を当初の予定どおり1994年におき、弛まず仕事をしたい。 西日本地域の今年度の整理作業の中で、従来の研究成果に変更をせまる新しい所見を得たので、以下簡述する。 1.沖縄県における貿易陶磁器は、グスク出土品を中心にして、14世紀中葉〜16世紀前半の約150年間に集中する事実に変りがないが、それより以前の、すなわち三山鼎立が史料的に明らかになる以前の12世紀代から中国陶磁器が沖縄各地にもたらされていたことが判明した。この一見些少な事実は、沖縄における対外交渉史の曙を解明する点において、従来の定説を変え、文献史料の欠を補い、新視点を提供するものである。 2.貿易陶磁器の出土量がわが国で最も多いのは、博多遺跡群であることは、ここ数年来の調査結果によって明らかになった。このことをより深くみると、出土量が多いのは11世紀後半〜12世紀に限定され、その後は相対的に減少傾向をたどることが、今年度の予備調査によって明らかになった。上記の150年間における博多の貿易陶磁器は、異常ともおもえる程の量と、同一器種が未使用の状況で、まとまって出土する点から推定し、博多にこの時期、貿易陶磁器のわが国の流通拠点がおかれて西日本各地へもたらされていたと考えられる。 3.従来調査の立ち遅れていた四国地域において、高知、香川などの調査で、貿易陶磁器は、中国地方の状況と相似た傾向を示すことが予想でき、来年度の目録作成を機としてより詳細に調査を進めたい。
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