本課題の目的は、赤外線波長域の分光スペクトル観測によって、低温度星の進化の問題に新たな知見をもたらすことである。最近の種々の赤外線観測によって、低温度星の多くが厚い塵の雲によって覆われており、これらの塵からは強い赤外線輻射が放出されていることが分かってきた。塵に覆われたこれらの低温度星は星の進化の最終段階にあり、やがては、塵が晴れ上がって惑星状星雲へ移行していくものと考えられているが、観測的には未解明の事柄が多い。これらの低温度星の性質を明かにするために、厚い塵に覆われた星の赤外線観測を、分光、測光の両手法によって幅広く進めた。約140個の星の測光デ-タと26個の星の波長域2〜4μmのスペクトルデ-タを得た。低温度星は星の大気中の炭素と酵素の比(C/0)によって、Mー型星(C/0<1)、炭素星(C/0>1)、Sー型星(C/0〜1)に大別される。これまでに知られている結果と我々の観測結果を総合することにより、これら3種の低温度星がそれぞれ異なった物質からなる塵を放出しながら、進化の経路をたどる様子が分かり始めてきた。 交付された予算は予定通りの内容で使用された。観測のための主要機器である冷却グレ-ティング分光器の高効率化のため計画された16素子InSb赤外線検出器の導入は予定よりやや遅れ、現在尚進行中である。近く完成する予定である。 今後は、赤外線波長域の測光、分光観測に加えて、偏光観測も行なうことにより低温度星の進化についてさらに研究を進めたい。
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