研究は、化合物半導体中に注入したp殼原子をレ-ザ-光ポンピングにより核スピン偏極させるという新しい方法を用いて、Ge、Se、Asなど半導体を構成する多くの元素の原子核(これらの多くは遷移領域核である)についてのモ-メントを効率良く測定しようとするものである。この方法の適用範囲は広く上記の遷移領域核のみならず、Si近傍の比較的軽い核の研究にも有効な手段を与えるので、重イオン反応(特にProjectile fragmenntation)を効果的に使用した研究の道を開くことが出来る。 今年度の計画として、1)磁場のもとで低温用クライオスタット内に置いたGaAs半導体に、レ-ザ-光を吸収させ、ドナ-不純物原子(Te及びZn)や基盤材のGa、Asなどの核偏極を生成し、レ-ザ-で励起されて伝導帯に上げられた電子が再結合する際に放出される燐光を検出することにより、NMR磁気共鳴を観測する。次に比較的長寿命の不安定同位元素を中性子照射により半導体基盤中に生成し、核崩壊に伴うβ線やγ線の非対称及び非等方性放出分布を検出して磁気共鳴の観測を行い、磁気モ-メントの正確な値を得ると共に実験遂行上の注意すべき点を明らかにする。これらの研究を通して、半導体中での光ポンピング機構に関する詳細な研究をも行うものである。 以上の研究計画の内、1)に関しては、GaAs及びInGaAsP半導体について、Te、Zn、Pをド-プしたものを注文製作し、光ポンピングによる核偏極についての情報を燐光観測により得ている。InGaAsPについては特にその混晶成分を選んで可視光リングレ-ザ-光で励起出来るようにしている。また2)に関しては、原子炉よりの中性子照射によりTe、およびPの不安定核を生成し、β線の観測により核偏極の直接的確認と磁気共鳴観測による超微細構造定数の精密決定及び磁気モ-メントの測定を行いつつある。現在、InGaAsP試料において^<32>Pの核偏極が約3%程度得られていることを確認している。
|