ポジトロニウムは、対消滅で発生するγ線の角相関やドップラ-・スペクトルを調べることでその運動量状態に関する詳しい情報が得られる、ユニ-クな「原子」である。本研究では、運動量と時間の相関をとりながら測定する装置を作製し、個別の測定では得られない情報を得た。 本年度は、角相関・寿命相関装置を完成させた。また、前年度からすでに稼働中のドップラ-スペクトル・寿命相関装置を用いた測定も行った。 測定は、一部中国科学院高エネルギ-研究所の張天保博士と協力して、特に、酸素とポジトロニウムの相互作用の研究を中心に行った。酸素分子は基底状態がスピン3重項なので、酸素分子と衝突したオルソ・ポジトロニウムは、高い確率でパラ・ポジトロニウムに変換されて消滅する。そのために、通常の意味でのピックオフ消滅の断面積の測定は不可能であるとされていた。しかし運動量を調べると、オルソ・パラ変換からは鋭い分布、ピックオフからは幅広い分布が得られる。本研究ではこれを積極的に利用して、酸素中のピックオフ消滅の断面積を初めて決定した。 また、生成してから10ナノ秒以上の寿命を持つ陽電子はオルソ・ポジトロニウムを形成したものしか存在しないことに注目して、β崩壊から生成する陽電子のスピン偏極率を高精度で測定した。さらに、外からの磁場によってポジトロニウムの寿命を変化させながら、ヘリウム中でのポジトロニウムの運動量分布の時間依存性を測定した。それを用いて、ポジトロニウムーヘリウム衝突における運動量移行断面積を初めて決定した。
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