ポジトロニウムは、対消滅で発生するγ線の角相関やドップラ-・スペクトルを調べることでその運動量状態に関する詳しい情報が得られる、ユニ-クな「原子」である。本研究では、運動量と時間の相関をとりながら測定するための、ドップラ-・寿命相関装置および角相関・寿命相関装置を作製し、個別の測定では得られない情報を得た。ドップラ-・寿命相関装置にはプレ-ナ-型高純度Ge検出器を用いて分解能を上げた。また角相関・寿命相関装置には位置敏感型光電子増倍管を用いて計数率の向上を計った。新しく得られた結果は以下の通り。 (1)酸素中のオルソ・ポジトロニウムのピックオフ消滅の断面積を初めて決定した。(酸素分子は基底状態がスピン3重項なので、酸素分子と衝突したオルソ・ポジトニウムは、高い確率でパラ・ポジトロニウムに変換されて消滅する。そのために、通常の意味でのピックオフ消滅の断面積の測定は不可能であるとされていた。しかし本研究では、オルソ・パラ変換からは幅の狭い運動量分布、ピックオフからは幅広い運動量分布が得られることを利用して、これを可能にした。) (2)ドップラ-法と角相関法による陽電子スピン遍極測定法を確立した。(静磁場中でのオルソ、およびパラ・ポジトロニウムの生成率の非対称性を利用して、陽電子のスピン遍極率を高精度で測定することを可能にした。) (3)ポジトロニウムーヘリウム衝突における運動量移動断面積を初めて決定した。(外からの磁場によってポジトロニウムの寿命を変化させながら、ヘリウムの中でのポジトロニウムの運動量分布の時間依存性を測定し、運動量移動断面積を決定した。)
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