研究概要 |
地球を含む惑星の大気分子の光散乱特性を、高感度密型散乱光度計による室内実験によって再評価することが本研究の目的である。このために、本年度は、まず東北大学において開発された高感度散乱光度計を改良し、精度の向上と装置の気密化を行った。その結果、散乱角約3度の前方散乱光から散乱角約170度の後方散乱光までを対象とし、散乱マトリックスの全要素を連続的に測定することのできる装置が完成した。特に従来散乱光が微弱であるために正確な測定の困難であった散乱角90度の方向の水平偏光成分も十分な精度で測定可能となった。これにより、非球形分子の偏極率の非等方性に由来する減偏光因子(あるいは偏光解消度)の正確な決定が可能となった。この装置を、目的とするN_2,O_2,CO_2,H_2等々の大気成分に応用するに当たって、試料中にわずかに混入する微粒子成分(エアロゾル)の影響の補正もしくはエアロゾルの完全除去を行う必要がある。上の観点から、次に、実際の空気試料を装置に導入して、空気分子とエアロゾルの混合試料の光散乱特性を測定し、それからエアロゾルのみの散乱特性を抽出した。得られたデ-タを東北大学で開発したインバ-ジョンの手法によって解析し、エアロゾルの粒径分布と複素屈折率を決定した。これにより、エアロゾルは基本的に半径約0.5ミクロン以下の小粒子モ-ドと、より半径の大きい大粒子モ-ドとから構成されていること、およびその複素屈折率は相対湿度に依存することなどが明らかとなった。 今後は、予定通り大気分子を対象とした光散乱実験を実施し、各分子成分の散乱マトリックスを決定すると同時に、それらを現実の混合比にしたがって加え合わせることによって、それぞれの惑星の大気の散乱特性を明らかにしていく。
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