研究概要 |
今年度の観測作業は伊豆小笠原海溝のCTD観測(平成3年2月)と係留流速計の回収設置(平成3年3月)と研究船運航の都合により年度末に集中した。平成2年3月の淡青丸で回収した流速記録は次の特徴があった。海溝軸の底層で潮汐流と慣性振動が卓越するが一般流は弱く,最大流速も10cm毎秒であった。一方,海溝の西斜面には平均30cm毎秒の南下流があり,最大流速は50cm毎秒にも達した。海溝の東斜面の係留系は音響切離装置の応答はあったが浮上しなかったので,今年度の航海で再度回収を試みることにしている。 白鳳丸航海(KHー91ー1)で鋼線ケ-ブルの限界である8000mまでのCTD観測を実施した。ポテンシャル温度は深度とともに低下することが確認された。一方,現場温度は4000m層で1.5℃の極小値になり,下層では断熱圧縮のために昇温し8000mでは2℃になっている。ポテンシャル密度は3500m以深ではほぼ一定になっている。底層にポテンシャル温度の低い海水があることは熱伝導による冷却の可能性がある。ポテンシャル温度と塩分の関係をスクリップス海洋研究所の観測値と比較すると,北緯35度の観測値とほぼ一致し,北緯24度,47度には海溝の海水よりも低温・高塩分の海水が存在することが分った。海溝底の海水の起源は南北のいずれにも有り得ることになる。海溝底には数年あるいはまれに形成される低温水が流入している可能性も否定できない。平成3年度に購入予定のチタンケ-ブルによる海溝底までのCTD観測の結果がいよいよ興味深いものになった。
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