1.前年度に引き続き本邦の主要炭田および産炭地からの石炭試料について、全硫黄の同位体比を測定した。S含量が1.0(重量)%以下の低硫黄炭のδ^<34>S値は、日本炭の場合53試料での平均が+11.8‰となり、これまでに報告されている諸外国産の石炭試料に対する平均値+7.7‰に比し明らかに重いことが確認された。これは島狐環境下の石炭堆積盆が泥炭形成時に海水の影響をより受けやすかったことを示唆すると解釈できる。 2.栃木県益子町付近の更新世粘土層より産する泥炭(木質亜炭)試料を堆積環境ならびに硫黄同位体的見地から検討した。堆積学的には海水環境が全く示唆されず、基本的に淡水成とみられる当地の泥炭もそのδ^<34>S値の平均は+12‰となり、泥炭形成過程の少ななくとも一部に海水の関与があったことが推定される。これは上記日本炭での一般的傾向とも整合するものと言える。 3.いわゆる低硫黄炭中の硫黄の起源については原植物に由来するとの考えが今日支配的であるが、この点を検討すべく現世木と流木試料中の硫黄含有量ならびに硫黄同位体比を予察的に比較した。その結果、有機変成がまだほとんど進行していない流木段階で環境水中の硫黄が材にとりこまれること、この段階でしばしば顕著な同位体分別が生ずることなど、従来全く知られていなかった知見のいくつかがえられた。 4.系統的研究例が少ない淡水中の硫黄同位比デ-タを、栃木・茨城県下の那珂川水系につき流域の植生(よもぎ)ならびに土壌中の硫黄同位体比とともに検討した。中・下流域での水のδ^<34>S値は+4.5‰とほぼ一定であり、植生はこれより軽く約-2‰、一方土壌は重く約+7‰となった。これは植生の硫黄が土壌から、また土壌の硫黄は流水から供給されたものと考えて明快に説明できる。
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