透明トランスジュ-サを用いた光音響分光法は透明なLiNbO_3の両面にITO透明電極を付け、このトランスジュ-サを通してそれに接した積層試料に光を照射する。この方法は感度良く信号が検出できる反面、試料が積層の場合には信号の出力機構に各層の弾性的性質が関与し解析が複雑である。本年度は理論解析を確立するために、GaAsウエハ-を対象とし、試料で発生した熱が熱膨張係数に異方性のあるトランスジュ-サに伝わった場合の解析を行った。試料が長波長の光に対しては均一な膨張をし、短波長の光に対しては表層だけが加熱されるためベンディングが発生する。この二種類の試料の歪が信号として検出されるばかりでなく、試料で発生した熱がトランスジュ-サに伝わり熱膨張のために信号の補正を受ける。この影響を信号の(均一膨張)と(ベンディング)の割合を変えて、PA信号強度の周波数特性実験の結果と照合し、この割合を1対1.6と設定した。その結果、位相信号の周波数特性の実験値も理論的に説明することが出来、理論をほぼ確立することが出来た。 この理論によれば、PA振幅信号の光変調周波数依存性は試料の熱伝導率により敏感に変化することから、InPウエハ-の熱伝導率を推定した。理論と実験との照合によって0.63〔W/cmK〕となり、文献値0.67〔W/cmK〕にかなり近い値となった。我々は今後この理論を積層構造に発展させ、各層の電気的な物性質ばかりでなく、ここで示した熱物性値や弾性定数も明らかに出来ると考えている。
|