研究概要 |
タングステン板上に陽極酸化法によって形成した酸化膜の表面に極薄PdまたはPt膜を堆積し,反射形構造の水素クロミック素子を製作した。この素子の近赤外線の波長領域における反射率は,素子を水素にさらすとき急速に減少することを見い出した。本年度はこの水素応答の機構および素子の最適製作条件について研究した。 タングステン板を5分間機械研磨して鏡面にし,さらに1N NaOH溶液中でこの板を陽極とし白金板を陰極として40℃で化成した。陽極電圧は1VステップでOVから数十Vまで段階的に上昇させつつ陽極酸化を行った。この膜の構造をX線回折および走査電子顕微鏡により調べ,つぎのような知見を得た。膜厚が数千A^^°の酸化膜は針状および板状の微細結晶からなり,その組成はWO_3・H_2Oである。膜厚が2000A^^°以下の場合,膜は針状の微細結晶からなり,W_<25>O_<73>の組成をもつ。前者の膜は水素に対して応答するが後者はしない。1%H_2を含むArガスに前者の膜をさらすと上記反射率は大幅に減少するとともに,可視光領域における光の干渉による反射率ピ-クは短波長側にシフトする。このセンサの応答時間は約10sである。同位体効果が存在し,重水素に対する応答は水素に対するそれに比べて遅い。このセンサは室内空気中に長期間放置してもその感度に劣化が見られないが,応答時間は長くなる。また,真空中,200℃で1時間熱処理するとセンサの応答特性は劣化する。これは陽極酸化膜が脱水するためである。 膜中における水素タングステンブロンズの形成が着色の機構であり,プロトンの膜中への拡散が着色反応を律速していると考えられる。ここで,膜中に含まれる水はプロトンの拡散係数を増加させるように働く。
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