本研究の目的は、本研究代表者が見出したLiNbO_3やLiTaO_3の熱処理により生ずる自発分極反転現象の特性と機構を解明するとともに、反転分域を巧みに利用して単分域結晶では得られない新しい機能や特性を有する各種の圧電デバイスを開発することにある。本年度の研究により得られた成果・知見を以下に示す。 1.LiNbO_3への金属拡散により反転分域の形成が可能かどうかを調べ、CuやNiなどの拡散では反転は起こらないが、Ta、Mo、Crなどの高融点金属では反転が起こることを明らかにした。2.酸やアルカリで表面処理を行った後にキュリ-点直下で熱処理を行う実験を行い、酸で処理した場合には反転が起こるがアルカリで処理した場合には分極反転現象が生じないことを示した。3.熱処理やプロトン交換処理により表面付近に形成される空間電荷が反転に重要な役割を演じている可能性を指摘し、そのモデルを提案した。これにより反転現象の大半が説明可能であることが明らかにされた。4.LiNbO_3にPtマスクを付けて熱処理することにより、反転分域の選択形成が可能なことを実証した。これは、Li_2Oの外拡散による空間電荷の電界が反転現象の原因になっていることを示唆する重要な結果である。5.多分域化したLiTaO_3をプロトン交換した後、キュリ-点直下で熱処理する実験を行い、板の両面に自発分極が外側を向いた単分域層が形成されることを見出した。これは、プロトン交換により表面付近に負の空間電荷が形成されていることを立証する重要な成果である。6.反転領域を選択的に形成する方法として、プロトン交換の際にAl膜およびAuーTi膜をマスクとして用いる方法を検討し、周期的な反転分域の形成が可能なことを示した。7.表面に形成した周期的分域を用いた弾性表面波反射器、共振器、一方向性変換器を試作し、その高性能を実証した。
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