体温は、生体が生命を維持し、その機能を発揮するために大切な基本的物理量の一つである。通常は、腋の下などに体温計をあてて測定した値を体温としている。しかし、体内の温度は一様ではない。各部位の組識や器官は生理的状態などに応じて異なった値を持つことが知られているが、体内温度体外から測定する方法が無いので、詳しいことは未知である。また、近年、癌の新しい治療として癌温熱療法が研究され臨床適用されている。現在、臨床では熱電対などを組識に刺入して、侵襲的に温度計測している。忠者の苦痛、細菌感染や癌転移誘発の恐れなどに加えて、温度測定点の位置と数が限られるから、治寮領域全体の温度分布とその時間経過を詳しく知ることが殆どできない。無侵襲温度計測法の開発が強く要望されている。 生体組識が放射する熱幅射のマイクロ波成分を、体表上に置いたアンテナを介して、ラジオメ-タで輝度温度として測定する。複数(5)の観測周波数で測定した1組の輝度温度デ-タ-を解析し、組識温度の深さ方向プロフィルを測定する方法を用いて、体内温度分布無侵襲計測法を開発する研究を行なってきた。平成1ー2年度における主な成果は、(1)蒸留水を潅流した体表冷却用ボ-ラスの上から体内温度の無侵襲計測ができることを理論と実験により示した、(2)組識温度プロフィルを経算すると共に組識温度測定の分解を、Monte Carlo法を用いて計算する。新しいデ-タ解析法を開発した、(3)ラジオメ-タの性能改善がもたらす組識温度分解能の改善度を定量的に予測できる様になった、(4)深さ2cm で約で±0.4k、4cmで約±0.7kの組識温度分解能(信号積分時間 5秒)を実現できることを、数値シュミレ-ションによって、明らかにしたことである。無侵襲温度測定法が他に無い状況の中で、これらの成果は重要な成果である。
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