研究概要 |
概念的枠組みの構築に主眼を置いた昨年度の研究成果を受け,本年度は主として具体的なモデル開発を行った.海上交通事故の構造分析を進める過程で開発の必要性が指摘されたFuzzy Fault Tree Analysisについては,ファジィ入力情報から分析の必要性に応じてファジィ出力および非ファジィ出力を得る2種類のモデルを構築し,その有用性を確認した.また,本モデルを用いて船舶衝突事例を解析し,多重遭遇状況下における衝突事故発生機構を明らかにするとともに,類似現象でありかつ交通管制が実施されている空港地上交通の事故解析を一部行い,管制がもたらす効果について検討した. 一方,多重遭遇発生確率算定モデルを構築する過程で,巨大船から小型船までが入り交じって航行している船舶交通の実態に鑑み,接近距離のみで論じられてきた従来の多重遭遇の定義を,船舶の大きさおよび運動性能を考慮にいれたものとすべきであるとの結論に至り,接近時間間隔をもって現象を記述することとした.これに沿って,所与の時間間隔以下となる船舶相互の遭遇頻度を求めるモデルを開発し,以前に開発したネットワ-クシミュレ-ションモデルに組み込むことにより,ふくそう海域における多重遭遇確率を求めることとした.本シミュレ-ションモデルでは船舶の操縦性等の影響が考慮されていないため,並行して,船舶の運航判断と操縦性の影響を重点的に記述するミクロシミュレ-ションモデルの開発を行い,来年度に現象記述の妥当性に関する検討を行う予定である. 以上の成果については,本年5月に開催される土木学会および日本航海学会で報告を予定しており,また,ネットワ-ク同定の基礎を与える船舶のコ-ス選択モデルについては7月に開催される国際会議Coastal Zone '91で発表する.今後は,これらの部分モデルを統合し,航路計画と交通管理の両面から事故逓減方策を検討する予定である.
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