本研究で得られた知見を報告書では6章構成でまとめた。1章では本研究の背景にある室内空気質に関する諸問題を記述し、人間の嗅覚を用いた室内空気質評価の必要性を述べた。2章は「体臭により汚染された室内空気と必要換気量に関する実験研究」と題し、換気量と被験者の不快者率との関係について考察した。のべ54名の日本人男女大学生を在室させ、彼らから放たれる生体発散物質によって汚染された実験室の空気を様々な換気量のもとで、のべ107名の日本人大学生に嗅がせ、その感覚を申告させた。この実験結果から、不快者率とCO_2濃度との関係を求めた。その結果、米国暖房冷凍空調工学会の換気基準が定めた許容空気質基準である不快者率20%はCO_2濃度995ppmに相当することがわかった。3章は、「訓練パネルを用いた知覚空気汚染度分布の評価に関する試験研究」と題し、室内空気質をFangerの提案した知覚空気汚染度の単位decipolで申告するように訓練されたパネルを用いて、室内の空気汚染度の分布を評価する方法を提案した。この訓練パネルはタバコ煙によって汚染された測定対象室内の3点の空気を吸引チューブを取して嗅ぎ、その空気の知覚空気汚染度をdecipol値で申告した。一方、トレーサーガス(SF_6))を対象室内で発生させ、各測定点のトレーサーガス濃度から局所空気齢を算出した。4段階の換気回数について、上記の実験を行った結果、換気回数の少ない実験タイプを除いて、測定点での空気齢と知覚空気汚染度との相関は高くなった。4章は「冷房空間における知覚空気汚染物質の除去効率に関する実験研究」と題し、異なる換気方式を設定できる実験室において、トレーサーガスを用いた室内換気性状評価と、訓練パネルを用いた知覚空気汚染度分布の評価を行った。3種類の換気方式下で、空気汚染源としてタバコ煙及び体臭を用い、完全混合の換気状態を設定したセッションI、撹拌ファンを止めて完全混合を設定しないセッションIIの両セッションにおいて、トレーサーガス測定で得られた空気齢分布及びパネルを用いて得られた知覚空気汚染度分布を算出した。4章の実験においては、空気齢の分布と知覚空気汚染度の分布に違いがみられた。これは臭気の分布状態及び拡散性と供給空気のそれとに差があることを示唆していると思われる。5章は「暖房空間における知覚空気汚染物質の除去効率に関する実験研究」と題し、4章と同様の実験を暖房空間において行った。空気汚染源としてタバコ煙を用い、室内4点の測定点の局所空気齢及び知覚空気質指標を求めた。トレーサーガスを用いた局所空気齢及び室平均空気齢測定の結果、側壁下部吹き出し・側壁上部吸い込みを設定した換気方式が最も高い換気効果を示した。また、この換気方式は、訓練パネルの申告から算出した知覚空気質指標の結果からも、最も高い換気効果を示していた。
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