1.精神薄弱者の生活の自律性と施設における職員等の接し方 自閉症者等を含む精神薄弱者、とりわけ重度の障害を有する者の中には、社会性の低さ、あるいはプライバシ-と空間(居室)との対応関係が確立していない等の理由から、物的生活環境のうちで物品が重要な意味をもつ例が少なくない。また自閉症者の中には、電話帳等の特定の対象に強い興味や執着を示す者が若干数ながら認めることができる。 しかしこのような一般的見解にもとづき、障害の内容程度を分析の軸として考察を押し進めることは極めて困難である。施設間の差異が大きすぎるからである。裏返せばそれぞれの施設での入所者に対する接し方が、生活の自律性の低い障害者の個人生活・集団生活に決定的とも言える影響を与えていることを示唆しており、特に物品との関わりの考察を通して個人生活への影響、そこでのプライバシ-を把握する事ができる。 2.物品との関わりと施設入所者のプライバシ- プライバシ-と居室との対応関係が確立していない場合でも、居室あるいはベッド周りが『巣』としての心理的意味をもたない訳ではない。症例により程度の差はあるが心理的依拠は認められる。公私が渾然とした状態にあるのは一般の乳幼児と共通したパタ-ンと考えられるが、居室が巣以上の意味を持ち難い原因のすべてを障害に求めることはできないと思われる。居室空間の貧しさの影響や施設のあり方という問題は今後考察していかなければならないだろう。一方文字等の記号に強い関心をもち私物としての電話帳や時刻表に極めて強い執着を示す自閉症者は前例よりも知的遅れは少なく社会性も比較的高いが個人生活は狭く偏った内容のままであるという前者とは異なった問題をもっている。今後は自我の成長の場としての生活空間の意味を、症例の生活史を追う中で分析し、彼等にとってのプライバシ-の意味を解明していきたいと思う。
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