研究概要 |
1.施設に生活する自閉症者に見られる物品に対する極端な傾向 既に昨年度に報告したように,特定の物品に強い拘りを示す自閉症者がいる一方で,自閉症者の多くに共通する別の傾向の存在が確認された。即ち彼らの居室の棚の上に物品を置くあるいは壁の上にポスタ-やカレンダ-などを貼るといった物品による私的空間の飾りつけが、程度の差はあれ貧弱なことである。普通の精神薄弱者も同様の傾向を見せているが、皆無と言える程に貧弱な例はほぼ自閉症者に限られるといって良い。この傾向は、様々な要因が絡み合って生起していると考えられる。まず第一に考えられるのが,施設という生活環境の質に起因すると考えられるものである。例えばプライバシ-の欠如(施設職員などに対するものだけでなく,入所者同士のプライバシ-も十分確保されていない)。また居住棟での生活の大半を食堂や居間など集団場面で過ごす者が多く、彼らにとっては居室はただ寝るだけの場になっていること等々。 2.物品と施設入所の自閉症者のプライバシ- 上述の傾向に関して、昨年度の報告でも触れたことだが、自閉症者にとってのプライバシ-が、我々の場合と異なり、必ずしも居室という私的スペ-スと対応しないという,おそらく障害に起因すると思われる要素も無視できないだろう。しかしここで注意すべきは,この現象が施設という特殊条件下で生起したということであろう。自宅,特にその自室では全く逆の様相を呈する自閉症者は決して稀ではないのである。このギャップの構造的分析から,施設という空間・物品特に私物・自閉症者をはじめとする施設居住の障害者の間の関連が解き明かすことができるかも知れない。来年度は本年度までに得た断片的事実を統合しながら,上述の問題に対する仮説を提示することを目指している。
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