研究概要 |
平成2年度までの研究の結果,塑性変形挙動に異方性が存在する単純なモデル合金であるマグネシウムーアルミニウム固溶体の高温における塑性変形挙動を実験的に明らかにするとともに,その特徴的な遷移挙動とその発現機構に関する知見を得た。平成元年度までに,本研究のモデル合金の一つとして選択したMgーAl固溶体(多結晶)の高温クリ-プでは,ひずみ速度の温度依在性が異なる温度域の存在すること,それぞれの温度域で,ひずみ速度の応力依存性が異なっていることを実験的に明らかにした。低温側で確認される応力依存性の異なる領域間の遷移は,立方晶固溶体に比べて不明瞭になるが,これは結晶の対称性が低いために,すべり面によって溶質原子と転位との相互作用が異なり,転位の溶質雰囲気からの離脱が段階的に進行するためと理解される。平成2年度は,すべり系の活動が低温域におけるそれとは異なると考えられるとともにクリ-プ変形のみかけの活性化エネルギ-が拡散の活性化エネルギ-とは異なる高温度域でひずみ急変試験を行ない,転位の運動様式に関する知見を得た。実験の結果,実験を行なった応力範囲においては明らかに有効応力が存在し,転位は粘性的に運動していることが強く示唆された。従来,固溶体における転位の粘性的な運動は,拡散がその運動を支配しているものと考えられてきたが,本系固溶体のみかけの活性化エネルギ-の値は,従来の知見とはかならずしも一致しない。このほか有効応力と溶質濃度との関係についても検討し,有効応力が無視できるような変形条件の下では,クリ-プ速度の濃度依存性が消失することが見出された。さらに,参照のために等価なすべり系の数が多い立方晶固溶体のクリ-プ変形における有効応力の溶質濃度依存性についても実験的に明らかにした。
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