研究概要 |
当初,この研究の最終目標として,1600〜1870年の「英語による物理学の概説書・啓蒙書・教科書の詳細年表」を作成することを期した。このような年表は原理的にいって,いつまでたっても〈完成した〉とは言い得ないが,研究開始当初と比べるとはるかに見通しのいい年表を作成し得た。また,そこに収録されている事項を内容的に裏付ける多くの図書を収集できた。また、この研究では,それらの図書の「系譜」を探ることもその課題としていたのであったが,これについては,ほぼ三つの系譜があるということを確認することが出来た。その一つは,オックスフォ-ド大学・ケンブリッヂ大学の教授陣による講義録・教科書の類であるが、J.Keillのもの以外には,物理学の定評のある教科書・概説書として長いあいだ版を重ねたものはほとんどないことが分かった。第二の系譜は,ロンドンに定住したり,英国中を巡回して科学を教えた街の科学者の書いた啓蒙書・概説書の類である。その中には,上記のJ.Keillの講義を受け継いだJ.Desaguliers(1683〜1744)をはじめ,B.Martin(1704〜82)やJ.Ferguson(1710〜1776),J.Priestley(1733〜1804),A.Walker(1731〜1821)などが入る。これらの人々の物理概説書は,大学の教授たちの教科書よりも長く読み継がれている。 その後,18世紀末ごろになると,労働者教育や女子教育などもっと一般的な教育に関心をもつ人々が科学書を書きはじめる。J.Imison(?〜1788)やMargaret Bryan(1760頃〜),Jane Marcet(1769〜1859),Mary Swift(生没年不明)といった人々である。とくにマルセ-の本は定評を得て長く読み継がれた。そのあと,J.Joyce(1763/1816)やE.C.Brewer(1817〜1897)などの聖職者やR.G.Parker(1798〜1869)などハイ・スク-ル関係者が易しい科学の本を書き始めて,明治初年の日本の科学教育にも影響を及ぼすようになるのである。
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