平成元年度、2年度に引きつづいて、本年度も小起伏山地源流域において、水循環制御機能を明らかにするための観測を継続して行なった。花崗岩山地の例として、愛知県瀬戸市の東大愛知演習林赤津試験地と愛知県小原村の2ケ所である。また比較のため扇状地性堆積物の砂礫層に覆われている犬山市の東大愛知演習林犬山試験地でも観測を行なった。 今年度はとくに、土層の表層部の森林落葉層を含む森林土壌に着目して、水流発生機構におけるその役割を明らかにするための研究を、東大愛知演習林の赤津と大山試験地で行なった。また実験室において森林落葉層や表層土の透水性や保水性に関する試験を行なった。その結果、森林落葉層は等価粒径で考えると表層土(花崗岩の風化土)などより粒径が小さく、従って保水性の大きいことが明らかになった。すなわち、表層部を森林落葉層と表層土の二層構造であると考えると、森林落葉層の下部に成層土層内毛管水帯(飽和層)が形成されることになり、この層を経由して水が移動し地表流を形成する水流発生機構の存在が示唆された。野外での観測では、森林落葉層と表層土を区別して、それぞれの中の水の流れを把握するまでには至らなかった。それらを合せた表層土層中に飽和帯が形成され、この飽和帯中の飽和側方流が斜面下方に移動することにより谷底に地下水面を上昇させ、地下水流出が生じ、さらに降雨が続くと復帰流の形で表面流の発生することが明らかとなった。 本研究地域などは、かつて荒廃した裸地であったことが知られている。森林土壌の存在が水流発生機構にどのような効果を与えたのかある程度の推測は可能となったが、今後さらに実験などによる新しい手段で、それらの関係を定量的に解明する必要がある。
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