研究概要 |
従来の電子エネルギ-損失分光(EELS)装置ではフィラメントで作られた熱電子をモノクロメ-タ-で単色化し,試料に照射する。試料で反射された電子はアナライザ-でエネルギ-分析され,試料表面の振動励起による損失エネルギ-等を測定する。しかし,測定には数十分かかり,表面上の反応の動力学に関する情報を得るのは難しい。測定時間をmsスケ-ルに短縮することができれば,動的過程の解明が一層進むはずである。 我々は分散補償型EELSスペクトロメ-タ-を設計・試作し,調整を実施した。試作した分散補償型EELS装置は電子銃,モノクロメ-タ-(90゚同心球型),アナライザ-(90゚同心球型),検出器から成立つ。モノクロメ-タ-には出射スリットが無く,試料はモノクロメ-タ-およびアナライザ-の焦点におかれている。モノクロメ-タ-の入射スリット(モノクロメ-タ-の焦点におかれている)を通った色々なエネルギ-をもった電子は試料表面で空間的に分散され,アナライザ-の出射スリット(アナライザ-の焦点におかれている)に再び収束される。分散補償型EELS装置の場合,原理的にはモノクロメ-タ-に入射した電流の全てを利用する。また,パスエネルギ-(分光器の中心軌道上を進む際の運動エネルギ-)が高いほど最大入射電流は多いが,分散補償型EELSは従来のものより高いパスエネルギ-を用いるので,入射電流も多い。両者を合計して,10^2〜10^3倍の強度が期待される。現在,エネルギ-分散能が21meVのとき,ダイレクトビ-ムの場合,125pAの電流強度(検出器電流)が得られるようになった。一層の調整を実施して,早期に表面反応の研究を実施する予定である。
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