研究概要 |
輻射寿命に及ぼすミクロ分子環境を明らかにするために,種々の特殊な系を選んで,螢光寿命を測定した. 得られた主な成果は,1.孤立分子の0ー0帯の螢光寿命に重原子効果が見られない,つまり0ー0帯の螢光量子収率が1に等しいと考えられる多くのアントラセン誘導体について,0ー0帯の螢光寿命(=輻射寿命)と,nーヘキサン中で求めた輻射寿命との関係を見てみると,驚くほどよくn^2(nは屈折率)の関係式を満たすことが見いだされた. 2.高圧力下での螢光寿命測定から輻射寿命の屈折率依存性を調べた.室温,溶液中での螢光量子収率が1か1に等しいとみなしてよいアントラセン誘導体(9,10ーdicyanoanthracene(DCNA),9,10ーdiphynylanthracene(DPHA),9,10ーdimethylanthracene(DMEA),9,10ーdimethoxyanthracene(DMEOA),9ーcyanoanthracene(CNA))を対象とした.LorentzーLorenzの式からわかるように,加圧による密度の増加とともに,屈折率は増大する.上記五つの化合物のいずれも圧力の増加とともに螢光寿命(=輻射寿命)が減少し,その様子はDMEOAを除いて,n^2の関係式から予測されるものに近いことを見出し,n^2の関係式を確立した. 3.渋谷の理論によると分子の振動子強度は分子のおかれている空孔の形によって決められる.一方,Jortner等の考えではクラスタ-の輻射寿命は親分子の形にはよらない.また,平山等の示した関係式では分子吸光計数が媒体によって影響を受けなければ,輻射寿命の屈折率依存性は親分子の形によらない.これらのことを確かめるために,アントラセン誘導体とは形が大きく異なる長鎖型の化合物であるQUI,BBQ,POPOP,BisーMSBについて,輻射寿命の圧力効果を調べた.この他,マトリックスアイソレ-ション法,液滴の発生についても,将来の研究につなげる基礎的検討を終えることができた.
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