研究概要 |
本研申請の高感度示差走査熱量計(Microcal社MCー2K型)を購入の後にこの装置の操作法を修得し,実験を開始した。まず,研究対象物質として実在生体膜の主成分である中性リン脂質,dimyristoylphosphatidylcholine(DMPC)を選び,この両親媒性分子が水の共存下で形成するベシクル(リポソ-ム)の熱力学的安定性を上述の熱量計を用いてベシクルの有するゲル-液晶相転移をモニタ-することで検討した。得られた結果を以下に記述する。1)DMPCの多重膜ベシクル(MLV)は超音波照射を施すことで大きいサイズの一重膜ベシクル(LUV)を経て小さいサイズの一重膜ベシクル(SUV)に移行する;2)この移行過程は超音波照射の時間ならびに強度や試料温度に影響される;3)熱量測定からは,MLV,LUVおよびSUVのゲル-液晶相転移に伴われる転移温度および転移エンタルピ-はともにこの順序で減少することが明らかにされた。この結果は,3種ベシクルのゲル相でのエンタルピ-が異なること,すなわち,球形表面の曲率の小さいベシクルほどDMPC分子がより密に充填した集合状態をとることが示唆される;4)3種ベシクルのゲル相のエンタルピ-が異なることを考慮することで,試料に低温熱処理(〜4℃)を施すと,LUVおよびSUVは最終的にはMLVまで移行する。この結果は,3種ベシクルの熱力学的安定性はSUV<LUV<MLVの順に増大することを示す;5)これに対して,3種ベシクルを液晶温度で保持するとベシクルの形態変化をほとんど観察されない。 次に,負電荷を有するdimyristoylphosphatidyl glyceroal(DMPG)を対象物質として選び,上述と同様の実験を行なうと,熱力学的最安定型は一種膜ベシクルであると結論が得られ,リン脂質が荷電を有することに基づくベシクルの熱力字的安定性の相違が確認される。これに関してのより深い知見を得るために現在,研究を続行している。
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