黒鉛炉原子吸光においては炭素との反応性、多孔質な炉壁への試料溶液の浸透や生成した原子の拡散が原子化機構と原子化効率に大きく関与している。本課題の研究では炉材中に試料溶液や生成原子が浸透しないメタル炉やメタンコ-ティング炉の感度の周期性および原子化機構を反応速度論的に考察し、黒鉛炉と比較しながら、原子吸光の絶体定量法へのアプロ-チを目標とした。本年度申請し購入したタングステン炉とタングステンコ-ティング炉による結果は次の通りである。 1.黒鉛炉のモル感度の周期性はパイロコ-ティング炉と非パイロコ-ティング炉の両方ともにZnとMnに極大値を持ち、Ti、V、Ni、Geで極小値を持ったが、この周期性はタングステン炉でも全く同じであった。しかし絶体的感度は平均して約10倍低い。この理由はタングステン炉はボ-ト型でオ-プン炉であり、原子化時に拡散して、生成した原子が逃げやすいこと、および多孔性でないため試料の保持能力が弱いことがあげられる。このことからも黒鉛炉の多孔性は意外にもその高感度に貢献していると考えられる。 2.メタル炉ではなく、黒鉛チュ-ブにタンタルおよびタングステンをコ-ティングした炉について検討した。タンタルコ-ティング炉ではGeとAsに対して約2〜4倍の感度向上がみられるが、他の元素に対しては効果がない。GeとAsの原子化律速段階は酸化物の解離であり、非コ-ティング炉と同じである。感度向上は炉面がスポンジ状になり、生成原子の保持力向上のためと考えられる。一方タングステンコ-ティングは単にNa_2WO_4溶液を原子化サイクルで焼き付けるだけで充分効果があることを見い出した。この炉はSn、Ta、Siの感度を高め、とくにSnではダブルピ-クの生成を完全に押え、Siでは有機ケイ素に有効であることを見い出した。
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