本年度は、都市大気中に、有機エアロゾルの主成分であるジカルボン酸とその先駆体であると考えられるオメガオキソ酸、アルデヒド類の解析を行なった。又、榛名山および海洋で採取したエアロゾル試料の有機物組成を解析し、都市試料との比較を行なった。 これまで報告例のなかったオメガオキソ酸(C_2ーC_<10>)を、初めての大気中に検出した。オメガオキソ酸はC_2(グリオギザ-ル酸)が主成分であり、C_3、C_4がそれに続いた。又、アルデヒド(グリオギザ-ル、メチルグリオギザ-ル)、ピルビン酸、クエン酸なども併せて検出した。これらの極性化合物は、ジカルボン酸と構造的に類似していることから、それらは大気中で芳香族炭化水素の光化学的酸化反応におけるジカルボン酸の先駆体であると考えられた。事実、光化学反応によって芳香族炭化水素類の濃度が低下する夏場には、ジカルボン酸およびオメガオキソ酸類の濃度は増加した。しかし、ジカルボン酸に対するオメガオキソ酸等の相対的濃度は夏に減少した。これは、アルデヒド基をもつ化合物は、夏期に光化学反応の進行によって、ジカルボン酸まで酸化されやすいことを意味している。 一方、榛名山、西部北太平洋で採取した大気試料でも、ジカルボン酸オメガオキソ酸類は検出され、都市大気のそれに類似した質的分布を示した。しかし、その濃度は、都市域にくらべて低いことが示された。このことは、都市域で生成された有機エアロゾルが、非都市域に大気輸送されこと、又、炭化水素等汚染物質が大気輸送される間に、ジカルボン酸などに変換されことを意味している。外洋大気では、沿岸大気にくらべ、10分の1以下の濃度となった。陸起源エアロゾルが大気輸送の間に、分解、沈降により大気から除去され、一部が海水に移行しているものと考えられる。
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