研究概要 |
今年度はボラン配位子として中性のルイス塩基付加物であるビス(トリメチルホスフィン)ジボラン(4)(1)に重点をおいて研究を進めた。これまで1はビシナルな2つの水素原子を通してキレ-ト配位することが知られていたが、中心原子としてはZn(II)、Cu(I)、Ni(O)などd^<10>イオンのみに限られていた。今回、d^6を中心原子とし、しかもポリボランが単座で配位する初めての錯体の単離に成功した。 トルエン中、1の存在下、M(CO)_6(M=Cr,Mo,W)の光照射により[M(CO)_5{B_2H_4・2P(CH_3)_3}](2)および[M(CO)_4{B_2H_4・2P(CH_3)_3}](3)の混合物が生じる。2と3はヘキサン並びにジクロロメタンの抽出により単離できる。2は3の前駆体であり、2から3の反応は熱並びに光で進むことが判った。熱反応は2の1次反応速度則に従い、活性化パラメ-タからCOの脱離が律速と判定された。CrおよびW錯体についてはX線結晶解析により2、3の構造を決定した。3では1はビシナルな2つの水素を通してキレ-ト配位しているが、この配位様式は既知の様式である。一方、2では、1がただ一つの水素原子を通して金属に配位していることが判明した。3はよく知られているB_3H_8^-と等電子等構造であるが、2つのボラン等電子体は未知のB_3H_9^<2->に相当する。2の構造はB_3H_9^<2->の構造としてLipscombの提案している2つの構造の1つ(styx=1015)に対応する。このことは、この様に低級なボランの錯体においてもボランクスタ-の結合論が適用できることを意味すると同時に、不安定で単離不能なボランのモデル化合物としてボラン錯体が使えることを意味する。また、これまでボラン錯体の合成には主に熱反応が用いられていたが、光反応が用いられていたが、光反応も有力な手段であることが判明したことも特記に値する。 今後はボラン部位を骨格の一部に含む金属クラスタ-の開発にも重点をおいて研究を進める予定である。
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