研究概要 |
昨年度合成に成功した錯体M(CO)_n{B_2H_4・2P(CH_3)_3}(M=Cr,MO,W;n=4,5)のキャラクタリゼ-ション,特に溶液内での動的挙動を調べた.B_2H_4・2P(CH_3)_3がビシナルな二つの水素でキレ-ト配位しているM(CO)_4{B_2H_4・2P(CH_3)_3}(M=Cr,Mo,W)は溶液内で動的挙動を示さないが,単座配位しているM(CO)_n{B_2H_4・2P(CH_3)_3}(M=Cr,W)はNMRのタイムスケ-ルでト-トメリズムを示した.温度可変NMRを用いた研究によりこのト-トメリズムは活性化エネルギ-の小さい(300MHz,-100℃で静的なスペクトルがやって得られる)ジェミナルな水素同士の交換過程と活性化エネルギ-の比較的大きいビシナルな水素同士の交換過程の二つを含むことが明かとなった。 これまでモノボランとしてはテトラヒドロホウ酸BH_4^ーの錯体は数多く合成されているが,等電子化合物である中性のLewis塩基モノボラン付加物(BH_3・L)は多くの試みにもかかわらず合成例はまだ報告されていない.M(CO)_n{B_2H_4・2P(CH_3)_3}の合成に用いた光反応を適用してBH_3・L(L=P(CH_3)_3,P(C_6H_5)_3,N(CH_3)_3)の合成を試み,M=Cr,Wについて単座配位錯体M(CO)_5(BH_3・L)の合成に成功した.W(CO)_5(BH_3・P(CH_3)_3)とCr(CO)_5(BH_3・N(CH_3)_3)の結晶解析を行ない,M…Bの距離からも一つの水素だけを通して配位していることが確かめられた.Mo錯体の場合には逆反応が極めて速く,B_2H_4・2P(CH_3)_3錯体と同様にMoカルボニル錯体がCr,Wカルボルニ錯体と性質が大きく異なることは注目に値する.BH_4^ー錯体の場合には二座配位する場合が多いがこれらの錯体が果たして単座から二座へ変るのかは今後の重要な課題である. なお,M(CO)_5(BH_3・L)は[B_2H_7]^ーと等電子等構造となり低級ボランの金属錯体とクラスタ-の関係が改めて注目される.
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