研究概要 |
1.酸素分圧制御下におけるJacobsite(MnFe_2O_4)ーHausmannite(Mn_3O_4)固溶体の相平衡状態図の作成 酸化物ならびに共沈ゲルを出発物質とし,Fe_2O_3ーFe_3O_4の混合粉末をバッファ-として用い,HausmanniteーJacobsite間の固溶体を合成した。さらに,この固溶体が低温において起こす2相分離領域の化学組成範囲を決定した。これらの相平衡関係について,Mn^<2+>,Fe^<2+>,Mn^<3+>,Fe^<3+>イオン間の相内イオン分配平衡,さらに,平衡酸素分圧とMnの価数および格子欠陥の関係について熱力学考察を加えたことにより,従来不明確であったこれらの相互作用を明確にした。 2.高温粉末X線法によるパイロル-ス鉱(betaーMnO_2)の熱分解過程の観察 示差熱分析によればパイロル-ス鉱は650℃付近で1本の吸熱ピ-クを示すものと2本の吸熱ピ-クを示すものとの2種が知られていたが,その原因は明らかではなかった。本実験では高温粉末X線法を用いることにより,これら2種の相違について熱分解機構を明らかにした。すなわち,後者のものではパイロル-ス鉱の一部がgammaーMn_2O_3およびMn_5O_8へ変化し,しかるのちにbixbyite(alphaーMn_2O_3)を晶出することが明らかとなった。この事実は,これらのパイロル-ス鉱ではその生成時に既に酸素の欠損を含むものであったことを示唆するものであり,生成環境の相違を反映している。 3.クリプトメレ-ン(A_xMn_8O_<16>・nH_2O,A=K,Na)の熱転移について クリプトメレ-ンはトンネル構造を持ち,トンネル内にK,Na原子を含む。700℃付近ではその一部がbixybiteへ変化すると同時に他の部分は正方晶系から単斜晶系へ転移しクリプトメレ-ンの状態のままで安定化する。結晶構造解析の結果,この現象は鉱物の一部の分解に伴って,構造中のK,Na原子がトンネル内を移動し,これに伴ってMn^<3+>イオが増加し秩序化することにより説明された。 4.ビスマステルル酸塩におけるテルルの原子価挙動 大気圧下におけるBi_2O_3ーSroーTeO_2系,Bi_2O_3ーPboーTeO_2系においては,Teの価数は化学組成及び結晶構造に依存する。すなわち,ホタル石に関連した構造において,無秩序相では4価,超周期構造を有する秩序相においては6価の原子価を有する傾向が認められた。 以上の実験結果から,混合原子価酸化物鉱物の挙動を結晶化学的並びに熱力学的に考察した結果,特に,低温度領域における混合原子価の挙動が明らかとなり,本研究の目的は達成された。
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