本研究ではZrO_2ーY_2O_3系を中心に、立方晶ー正方晶転移によって生成する微細組織を解析し、これが2次相転移の性格を有するものであることを明らかにした。高温の立方晶(cーZrO_2)から急冷によって生成する正方晶(tーZrO_2)には、ドメイン構造とよばれる特有の組織が形成された。このドメイン構造は、常に試料全面に亘つて生成し、cーZrO_2からtーZrO_2への相転移がいったん開始するとすぐに完了してしまうという特徴を有するものであつた。また、相転移の完了後には格子ひずみを緩和するために双晶が導入されることを示した。この双晶は、従来の研究ではマルテンサイトのバリアントと誤解されていたものである。また、tーZrO_2とcーZrO_2の2相領域内での加熱によって、変調構造が生成する場合があることを見出した。この変調構造はスピノ-ダル分解によって形成されるものであり、tーZrO_2とcーZrO_2の2相領域は、通常の理解とは異なり、miscibility gapとみなしうるものであることを明らかにした。 また、上記のような実験的研究とともに、ZrO_2について報告されている比熱のデ-タをもとに、立方晶ー正方晶相転移が2次相転移であるとして解析すると、正方晶と立方晶の相平衡が熱力学的に記述できることを理論的に証明することができた。この理論解析は、研究代表者とスエ-デンのHillert教授との共同研究の成果であり、国際的に大きなインパクトを与えることとなった。 さらに、正方晶と立方晶の2相領域内で微細結晶粒ジルコニアを加熱すると結晶粒間で構成イオンの分配が起り、結晶粒成長が著しく抑制されるとともに、室温ではtーZrO_2単相の正方晶ジルコニア多結晶となることを示した。これは、商用されている高強度・高靭性ジルコニアの微細結晶粒組織の安定性に理論的根拠を与えたものである。
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