本研究は、新しい磁気記録材料として期待される準安定相である鉄炭化物粒子および薄膜の合成法を確立し、その磁気特性を明らかにすることを目的としている。 鉄炭化物粒子合成用の反応気体として、一酸化炭素(CO)ガスが有効であり、生成相の制御は、窒素ガスによるCOガス分圧の調節と反応温度の設定によって可能であることを見いだした。300℃以下では炭化反応は起こらず、300ー400℃ではFe_5C_2が、400ー600℃ではFe_3Cが生成することを明らかにした。超高圧下でのみ安定なFe_7C_3は、出発原料としての酸化鉄にアルカリまたはアルカリ土類金属を添加することにより合成が可能であることを見いだした。 合成した鉄炭化物粒子の磁気特性は、飽和磁化値>100emu/g、保磁力は数百Oeであり、針状の鉄粒子を原料として合成した針状Fe_3C粒子の角形比は、約0.4であった。合成条件の制御により、現在の磁気記録システムに適合し、かつ飽和磁化値の大きな鉄炭化物粒子の合成が可能となった。また、Fe_7C_3は、Fe_5C_2より大きな角形比を有しており、Fe_7C_3の結晶磁気異方性係数は、Fe_5C_2よりも大きいことが初めて明らかになった。 アルゴンガス圧力を調節した条件下でのマグネトロンスパッタ法によって、Tc=220℃、飽和磁化値120emu/gの単相Fe_3C薄膜の合成が可能となった。このFe_3C薄膜は面内磁化膜であり、その結晶磁気異方性係数は、10^4J/m^3であること、また、保磁力は250Oeであり、磁気記録ディスクに適した値を示すことが明らかになった。
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