研究概要 |
本年度実施した研究は以下のように2通りに大別できるが,その実施大要と実績を併せて記載することにする。 1.本研究のうち実験の部では,熱処理法によって作製したアルキレン・アロマティック系樹脂の磁化率測定(昨年度実施)に引き続いて,電子スピン共鳴測定を実施し,詳細な解析を行った。それによると,昨年度に見出した,スピン多重度S>1/2を裏づける電子スピン共鳴が見出され,部分的ではあるが強磁性的なスピン相関が当該物質で現われていることを結論づけた。さらに,アダマンタン分子の熱CVD法によって得られた炭素系材料物質における超常磁性の発現,新規に合成したポリ(mーアニリン)における高スピン濃度,3重項以上のスピン相関などの観測結果も得られている。 2.上記の実験的研究と並行して,理論の部では強磁性型配列を含むポリジフェニルカルベンのスタッキング配向性,ポリパラシクロファンにおける強磁性発現の可能性などについて,量子化学的解析を実施した。それによると,ジフェニルカルベンをスタッキングする際に,そのピッチ角を4通りにわたって変化させたところ,その中で60゚と120゚の場合に単量体間の強磁性的相互作用が発現することが明らかとなり,分子設計の上で有用な示唆が与えられた。また,ポリパラシクロファンの電子エネルギ-バンドの幅は比較的狭く,類縁物質であるポリメタシクロファンに比べてその特異な磁性を期待しうることが明らかとなった。このほかさらに,ポリ(mーアニリン)の強磁性状態の電子構造の解析も行い,スピンサイトの特定やスピン部分の広がりの度合いなどの詳細な知見も得られている。
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