研究概要 |
本研究の目的は,水面上に展開された単分子膜と,電界質ポリマ-とのイオンコンプレックスが,水面上で実際どのように形成されるのかを知ることである。このために,減衰全反射(ATR)法を用いて,吸着されたポリマ-の厚さを,その場で,すなわち単分子膜が水面上にある状態で測定した。1.単分子膜にATRのプリズムの底面を上から押し付ける構造を用い、フィッティングにより0.01°程度の分解能を得ることができた。2.上記のプリズムに下から単分子膜を接触させるような,上下方向可動の水槽を作製した。3.屈折率の大きいSFSー1ガラスプリズムを用いて,電界質ポリマ-PSSK(potasium polyー(stylenesulfonate))と単分子膜DOAB(dioctadecylーdimethylーammoniumーbromide)の組合せで実験を行った。以下、得られた知見を列挙する。1.吸着は2段階で生じる。第一段階では、ほぼ単層膜に相当する平滑な層が急速に(分の程度)吸着され、準定常状態になる。第二段階では、この上に徐々に(時間の程度)不均一な厚い層が堆積する。2.第一段階での膜厚は重合度によらないが、第二段階の生じる速度は重合度が大きいほど速く、また膜厚は重合度とともにゆるやかに増大する(n=3500で16A^^°、n=42000で33A^^°)。3.吸着量は直接溶液に接している単分子膜のみならず、単分子膜とガラスプリズム間に挿入されたLB膜の影響も受ける。4.非アニオン性の単分子膜(ステアリン酸)には全く吸着が起こらない。以上を総合すると、電界質ポリマ-の吸着は比較的短い時間では、電荷中性条件によって完全に支配されており、従来推測されてきた、単分子膜・ポリイオンコンプレックスの平板的な1:1構造が水面上でもできていることが確かめられた。さらに、界面における電界の影響が単分子膜程度の距離を越えて及ぶことが示唆されているので、反射分光法によって、プリズムを用いないで吸着単分子層を検出する試みが現在進行中である。
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