屈曲性高分子は希薄溶液中で鎖セグメントの熱運動に基づく拡散挙動を示すが、その分子論的解釈については実験結果と理論予想との間に大きなギッップがある。即ち、近年急速に発展した動的光散乱法をこの屈曲性高分子希薄溶液系に適用して求めた実験事実は「高分子鎖が溶媒から非素抜け型の流体力学的相互作用を受けてKirkwood拡散方程式にしたがうブラウン運動をする」との理論予想とは極めて定性的にしか一致しない。この原因は、高分子鎖の運動をナビア・スト-クス(NーS)方程式そのものではなく、その"おそい流れ"場での近似式(オゼ-ン近似手法)を用いて記述しようとする従来の扱い方に欠陥があるためと考えられる。しかも、理論面での改良は未だ不十分である。そこで本研究では、NーS方程式そのものが理論的にも厳密にに取り扱える一方向流れの場に高分子溶液を置き、これに動的光散乱を適用し、NーS方程式成立状況下での溶液中の高分子錯の拡散挙動を実験的に調べた。同軸二重円筒型回転セル(内筒回転、外筒静止;石英製)の内外筒間隙に高分子希薄容液を注入し、内筒をゆっくり回転することにより、液中にCouette一方向流れの場を発生させた。この溶液にレ-ザ-光を照射し、液からの散乱光の強度ゆらぎを光子計数式時間相関計で観測し、時間相関関数を求めた。高分子/溶媒系として(1)主に分子の並進拡散運動のみが観測にかかるの子量77.6万のポリスチレン/ベンゼンおよび(2)並進拡散運動と共に分子内暖和運動も観測できる分子量271万のポリ(αーメチルスチレン)/ベンゼンの2つの系を、また、液のずり速度としてごく低速の0.57〜5.3sec^<ー1>(4段変速)を使用して実験を行った。その結果、この実験法を用いると、従来より広範な分子サイズ(経)領域にわたって、並進拡散係数の実験的評価が簡単明瞭に行えることがわかった。特に、並進拡散速度は観測したずり速度域ではずり速度依存性を示すが、適当に小さなずり速度では分子内暖和運動が見掛け上消失し、分子の並進運動のみが求まるとの知見は重要である。これらの結果は、今後、分子径と散乱ベクトルとの積の関数として拡散係数の実験値を理論と広範のわたって比較検討し、上記の研究目的を遂行する際には極めて有利な状況を提供してくれる。
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