研究概要 |
本研究はゲル中の高分子鎖のダイナミックスを明らかにし,その知識を基にゲル電気泳動中のDNAの運動と分離機構を明らかにすることを第一の目的とした。更に,数百万塩基対を越える巨大DNAを分離することができる泳動電場の開発を第二の目的とした。初年度はゲル中のゲスト高分子鎖の動的挙動を明らかにするため,誘電基準モ-ド過程を示すポリイソプレン(PI)をゲスト,長鎖PI又は誘電基準モ-ド過程を示さないポリブタジエン(PB)あるいはそれを架橋したものをマトリックスとしたモデル系を調整し,誘電測定によりゲストPI鎖の挙動を解析した。その結果,ゲスト鎖の分子量が低くゲル網目と絡まない系では最長緩和時間は分子量の2乗に比例し,RouseーZimmの理論によって説明できた。また,分子量が高く網目と十分に絡む場合は最長緩和時間は分子量の3乗に比例し,単分散系では定量的に成立しないとされるDoiーEdowards理論によって説明できることが分かった。この結果はDNAのゲル電気泳動を考えるとき,いわゆるbiased reptationモデルの有用性を示唆した。 二年度は電気泳動の実験に取りかかり,巨大なDNAをゲル電気泳動で分離する際に最も重要な因子は電場を交換する周波数であると考え,バイアス電場E_bに単一周波数f,振幅E_sの正弦電場を重ねたバイアス正弦電場(BSF)を導入し,移動度のE_b,E_s及びf依存性を調べた。その結果,E_b〈E_sの条件下で二万塩基対を越すDNAは分子量Mに依存した特定のピンダウン周波数f_pで移動度が極小を示すことを見いだし,ゲル濃度C_gの効果も検討した結果,f_p^<oc>M^<ー1>C_g^<ー1>E_s^0E_b^1なる関係が成り立つことを明らかにした。また,biased reptationモデルで定常電場での移動度を定性的には説明できたが,定量的には説明が無理な点が多くあり,更に精密なモデルが必要であることが分かった。
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