本研究では、非天然芳香族アミノ酸を、タンパク質の一次シ-ケンスの特定部位に導入して、光により酵素機能を制御できる分子システムを開発することを目的とした。具体的には、リン脂質の2位のアシル鎖を選択的に切断する酵素であるホスホリパ-ゼA_2(PLA2)を選び、化学変還法により改質して、変異酵素を合成した。合成の概要は以下の通りである。i)PLA2のリシン残基の側鎖アミノ基の選択的アミジン化、ii)エドマン分解を3サイクル行うことによる、PLA2のN端側の3残基の切断(DES3)、iii)非天然芳香族アミノ酸を含むトリペプチドの液相法による合成、iv)トリペプチドの活性エステルとDES3との反応、v)N端保護基の除去と変異酵素の精製。酸素活性は、放射性同位元素でラベルした脂質を用いてリポソ-ムを調整し、酵素との反応で遊離するアシル鎖を定量して行った。得られた変異酵素は、Trp^3をナフチルアラニン、アントリルアラニン及びフェニルアゾフェニルアラニン(azoF)で置換した3種類である。Trp^3は、基質集合体の界面認識部位を構成しているアミノ酸残基である。前2者の変異酵素では、UV光照射により酵素活性が減少した。これは、導入した非天然芳香族アミノ酸の光励起により、空間的に近接して存在するTyr^<69>との間で電荷移動錯体が形成され、変異酵素の脂質膜への分配が抑制させるためと考えられる。一方、トランス型azoFを導入した変異酵素では活性が失われたのに対し、UV光照射によりシス型にすると僅かながら酵素活性が認められた。シス型azoFを結合した変異酵素では、αヘリックス含率がトランス型よりも増大しており、トランス/シス異性化によるコンホメ-ション変化が、酵素活性の光応答性の原因と考えられる。
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