本年度は生化学的解析と阻害剤を用いた解析について述べる。 1)生化学的解析:酵母菌における蛋白質の細胞内輸送のin vitro系を確立した。パン酵母より粗面小胞体やゴルジ体をそれぞれ調製し、粗面小胞体からゴルジ体への分泌蛋白質の移行をみるのは容易でなく、我々は透過性酵母細胞を用いる系の確立を目ざした。この系は既にアメリカでは成功しているが、我国での成功例はない。酵母菌を液体窒素上で凍結融解することにより透過性酵母細胞(P-cell)を得た。別個に酵母の性フエロモンα-ファクタ-の遺伝子をSP6プロモ-タ-下においたものからα-ファクタ-前駆体mRNAをin vitroで合成させ、酵母の無細胞抽出液と^<35>S-Metを用いて放射性のα-ファクタ-前駆体を調製し精製した。この標識α-ファクタ--前駆体とP-cellとを一緒に孵置すると、α-ファクタ-前駆体は粗面小胞体内に分泌された。これはP-cellの外から加えたプロラア-ゼによっても小胞体内のα-ファクタ-前駆体は分解されないことから確められた。更に条件を色々検討した結果、α-ファクタ-前駆体は更にゴルジ体まで輸送されていることが、糖鎖付加の形から確認された。この確立された方法を用いて、酵母菌のpH08蛋白質のin vitro輸送をしらべた。pH08蛋白は酵母液胞膜に存在するアルカリ性ホスファタ-ゼである。現在のところ小胞体内腔への分泌ないし、膜へのとりこみも起っておらず、更に実験系の改良が必要と思われる。 2)阻害剤を用いた解析:酵母Candida albicansは抗生物質ブレフェルデインAに感受性で、分泌性(かつ細胞表在性)の酸性ホスファタ-ゼの分泌が顕著に抑制される。この現象を解析した結果、ブレフェルデインAは分泌蛋白質である酸性ホスファタ-ゼの細胞内輸送を、粗面小胞体からゴルジ体への間でブロックしていることを明かにした。
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