本研究はアブラナ科植物を用いて、S糖タンパク質を中心にして、その自家不和合性の機構を解明しようとするものであり、本年度は以下の点について研究を行いそれぞれの成果を得た。 1.S糖タンパク質の抗体の作成とその性質:Brassica campestrisの柱頭より、S糖タンパク質を精製し、マウスを用いて抗体を作成した。ここで得られた抗体はS糖タンパク質に対する特異性が高く、糖鎖部分でなく、主としてタンパク質部分を認識しているものであった。また、さらにタンパク質部分に特性の高い抗体を作成するために、S糖タンパク質のペプチドフラグメントを合成している。また、NS糖タンパク質についてもその抗体を作成中である。 2.抗体によるS糖タンパク質の柱頭状の分布の解析:上記の特異性の高い抗体を用いたイムノゴ-ルド法で、柱頭の乳頭細胞を電子顕微鏡で観察したところ、S糖タンパク質は細胞壁中に多く存在することが判明した。このことはS糖タンパク質が細胞表層にあり、自己の花粉の認識に関わっているとの説を支持するものである。 3.花粉と柱頭を用いた生理的な研究:花粉を効率よく発芽させ得る培地を考案し、それを用いて、花粉の発芽に対する、自己の柱頭、他個体の柱頭の影響を調べた。しかし、柱頭、および、抽出物に自己の花粉を特異的に阻害するような現象は認められなかった。また、花粉の発芽にはカルシウムイオンが必須であることが判明した。柱頭に花粉がつくと、細胞表層に滲出液が現れるが、それを分析したところ、アミノ酸が多く糖は少なく、カルシウムやマグネシウムイオンが数ミリモル存在することが判明した。しかし、自己の花粉のついたときと、他個体の花粉のついたときでの滲出液のイオン組成などに差は認められなかった。
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